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2005年11月19日

メタ萌え論、メタオタク論としての記号論 インターミッション2 ガノタと記号


そういえばフランス語なんかが男性名詞と女性名詞を厳密に区別すること自体、すでに記号論的なのだよなあ、とふと思った。
もしかしたらソシュール自身、そういうところから記号論の着想を得たのではないのかね、と、それはともかく。


ガンダム


である。
ガノタ善光寺さんにとっては大事な大事な作品である。
しかし、この作品は同時に、記号の宝庫、別の言い方をすれば、異化と同化の宝庫、とも言えるのである。

・アニメ(アトムからキャンディキャンディまで)
・巨大ロボット(鉄人28号、マジンガーZ、etc)
・ブリッジ(スタートレック、宇宙戦艦ヤマト)
・軍事(上に加えてあまたある軍事モノ。時代物もそうか?)
・群雄劇(さらにたくさんの前例があるが、なにを置いても三国志?)
・渋いオヤジ(ジュヴェナイルSFに渋オヤジ、という組み合わせは、やはり松本零司なのだろうな)
・美形ライバル(元祖はよくわからないが、ガルーダとかハイネルとかリヒテルとかシャーキンとか、まあ大体あの辺)
・帝国(恐竜でもガミラスでも銀河でもクリンゴンでも、好きなのを持っていけ)

漁れば他にも出てきそうなものだが、まあ大体そんなもんだろう。

これら一つ一つは、先行する作品群がすでに使用している記号である。
では、ガンダムがあれほどのヒットを生んだ理由とは何だったのか。

これについては、ガンプラ+再放送発火点説から、「リアル」礼賛まで諸説フンプン(シャア様に萌えた腐女子が本当の意味での火種だったという説もある。まあ、ピカレスクの香りのする美形キャラ、という点では、当時珍しかったのかねえ)なのであるが。

どちらにせよ、ガンダムの特色を、単一の記号に集約させることは、厳しいんじゃないかと思う。
SFとして、とか、群像劇として、とか、ミリタリーものとして、と言うくくりに置いては、より優秀な作品は数多あるのだろう。
誤解をおそれずに言えば、記号としての独創性(突飛さ)と言う点では、戦艦大和やC62が宇宙(と書いてそらと読む)飛んじゃう松本作品の方が断然スゴい。

そういうことをつらつら考えるに、ガンダムという作品の凄さというのは、とにかく記号をてんこ盛りにした、ある種びっくり箱状態を、受け手の前にボーンと提示してしまった豪胆さにあるのではないかと思うのである。

これは、まったく皮肉ではない。
正統派主人公ロボット(空は飛べないが)のガンダムであれ、
ジオンのMS群の兵器っぽさ(MAや水中用MSはキテレツメカだが)であれ、
赤い彗星の悪い王子様っぷり(ついでに言えばセイラさんとの悲劇の姉妹の物語)であれ、
ニュータイプという謎の概念であれ、
それを糸口にしてビックリ箱の中の記号を並べていけば、受け手は自分なりのストーリーの柱を構築できたのである。

記号論では複数の記号の結合による意味創出の働きを「統辞」と呼ぶのだが、統辞の多様性とか、仮にそれが送り手の意図したものと異なるのであれば、統辞の自由度の高さが、ガンダムという作品が多くのファンを生み、また俺のごときガノタを引きつけて止まぬ魅力なのではないか、と考えるのである。

ガンダムはその後多くのフォロワーや後継作品を生んだが、トミノ御大自らが後年語ったという、「ツノが二本生えてて目が二つあれば」に象徴される、ガンダムという表象の模倣(兵器としてのロボット云々、それまでのロボットアニメの常識を打ち破る云々を含む)の域を出なかったことが、それらフォロワーのうち多くの作品の失敗につながっているのではないだろうか。

(以下余談)
ガンダム以後で多くのフォロワーを生んだ作品と言えば、エヴァだよねえ。
おいらよくわかんないのでパスしますが。
(キンゲもブレンもエヴァのフォロワー、と言ったら、御大はどう思うのだろうか)

こないだ完結した「蒼天航路」を読んで思ったこと。
三国志も統辞の宝庫だよね。
主人公を誰にするかで物語の様相が全く違ってくる。
現代世界もそうなんでしょうが。

最初に着目する記号によって全く異なる統辞が現れる、と言う点では、ガンダムの正統後継者は萌えアニメだ、と、一瞬思ったが、あれは美少女ゲームの文脈から発生した文化だろうなあ。

最初に着目する記号によって全く異なる統辞が現れる、と言う点では、ガンダムの正統後継者はモーニング娘。だ、と言ったら、袋叩きですか。

投稿者 ushila : 2005年11月19日 01:11

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