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2011年04月19日
俺の竜撃砲がこんなに効かないわけがない(おいおいおい
俺とアマツの戦いは死闘を極めた。
ジョーや寺園先輩との激闘とさえ、確かに一線を画していた。
風と水流を自在に操り、時には空高くからも降り注ぐアマツの攻撃に、俺はズタボロにされていた。
オベリスクを持つ手からも力がだんだんと抜けていく。
あと何分、いや何秒? いや、一撃かもしれない。
だが、アマツももう限界のはずだ。
結んでいた髪は乱れ、白い学生服は袖口が破れて灰色に薄汚れ、あちこち血がにじみ、下から白い・・・ワイシャツか?・・・が覗いている。
あと一撃なら一撃でもいい。
ゆっくりと俺に近づいてきたアマツに、俺はオベリスクを振り上げ、砲撃を打ち込む。
「くっ・・・ッ!!」
俺がクイックリロードを行うのと同時に、アマツがひときわ高い苦悶の声を上げ、地面に叩きつけられる。
勝負だ!!
俺は最後の力でオベリスクを構えなおし、アマツに向かう。
踏み込み突き、突き、突き、叩きつけ!!
「フ・ル・バー・ス・トっっ!!!」
ドン、という鈍い砲撃音が響き、たった2発しかない砲撃が、アマツの腹を直撃する。
「キャーーーーーーッ!」
アマツは甲高い悲鳴を上げ、うつぶせに倒れた。
同時に、アマツの能力が解除されたらしく、雨雲が払われて太陽の光が差し込む。
風が止んだ昇降口前で、俺は武装を解き、大きく溜め息をついた。
「ふふっ・・・負けたのか・・・僕が・・・」
こちらも立っているのがやっとの俺の目の前で、アマツが力なく上体を起こす。
乱れたアマツの長髪が頬にかかり、その向こうから微笑むような目がのぞいている。
「こんな目に遭ったのは初めてだよ。どうやら君は本物みたいだね・・・」
単に力が入らないのか、敵意を解いたからか、アマツの声は妙に優しげに響いた。
そこで、俺は違和感に気づく。
こいつ、華奢だとは思っていたが、座り姿が、妙に色っぽいな・・・。
そう、まるで・・・。
「ふふっ・・・」
アマツがさっきと同じように笑う。
あっけに取られた俺は、アマツの顔を確かめようとして・・・。
視線が、こちらに手を付いて起き上がろうとするアマツの胸元で止まった。
これワイシャツじゃなくて、サラシだ!
そして、当然というか、その下には、わりと大きめな胸が・・・!!
「バレちゃったみたいだね、僕・・・いや、わたしの秘密」
アマツは学ランの胸元を片手でかき寄せると、ゆっくりと立ち上がる。
そして、ボロボロのズボンの太ももの辺りをさっさっと払うと、俺を見て、ゆっくりと話しはじめた。
「わたしがこんな格好をしてまで正体を隠していたのには理由があるんだ。
・・・この街のバランスはね、君が思っているより微妙なんだよ。
寺園は確かに強いけど、彼は最後のところで人がいい。だから、彼とは違う方法でこの学園を、この街を治める存在が必要だった」
アマツは、呆気に取られる俺の前で、まだ話し続ける。
しかし、こうやって見ると美人だな、こいつ・・・。
礼亜はいかにもヤンキーだけど、なんて言うか、清楚って言うか・・・。
「ふふっ・・・。
君も聞いたことくらいあるかな?『嵐の淑女』・・・」
聞いたことがあるもないも。
嵐の淑女といえば、夜な夜な街に現れる都市伝説みたいなものじゃないか。
いわく、暴走族『武流不暗護』をまとめてなぎ払ったとか、帝牙のヤツの顔に傷を作ったのはそいつだとか。
あれっ、たこ焼き屋のガンキンさんも、昔アゴを叩き割られたって噂じゃなかったっけ?
「まあ、私は三代目なんだけどね。あと姉が2人いて、折鶴とリリアンが趣味なんだよ?
・・・それはともかく、嵐の淑女と門幡学園第三高校の生徒会長が同一人物だなんて、誰も思わないでしょう?
だから私は、どちらでも自由でいられたし、この街を守るために戦うこともできたのだけど・・・」
そう言って、アマツは俺にゆっくりと近づいてくる。
その佇まいの優美さに、俺は身動きできなかった。
「それももう、卒業かな?」
言いながら、なおもアマツは俺に近づいてくる。
「君・・・いや、あなたがかわりにやってくれるでしょ?」
その言葉と同時に、俺とアマツの距離がゼロになった。
俺の肩にもたれかかるアマツの首元から、血や汗とは違う、なんだか優しい匂いがする。
「・・・動かないで」
肩をつかもうとした俺を、彼女の声が制する。
「ここから先の話は、誰にも聞かれたくない・・・」
彼女・・・アマツの声が、一段低くなる。
「この街にはね、寺園のほかに、あと3人の実力者がいるの。
2人は赤無と浮桓武・・・いわゆる街の不良だけど、巨躯だけじゃなくて、マグマや氷を操る連中よ。
そして、もう一人は・・・」
俺の心臓が高鳴る。のどの奥から、ごくりと言う音がする。
これはやばいことを聴かされている緊張なのか・・・それとも・・・。
「インターナショナルスクールの、アルバート・リオン。
私でもヤツの現れる先は捉えられなかった・・・。それでも、君になら・・・」
アマツの両手が俺の頬に添えられ、彼女の澄んだ瞳が俺の目を見つめる。
「託せるかも、しれないね・・・」
言い終えた彼女は目を閉じ、俺にさらに近づいてくる。
次の瞬間、俺の唇に一瞬、やわらかい感触があって、それはすぐに消えた。
状況がつかめない俺からさっと離れ、アマツは笑うと。
最初に見た歪んだ笑みでもなく、さっきの優しげな微笑でもなく。
いたずらっぽく、笑うと・・・。
「じゃ、またね。半田君。」
そう言って、昇降口に消えていった。
取り残された俺は体中の痛みも忘れて、まるですべてが夢だったかのように、その場に立ち尽くしていた。
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同じ頃。
門幡学園第三高校を一望できる、少し離れた高台。
低い唸りを上げる、一台のアメリカンバイクが止まっていた。
暗紫色のガソリンタンクの鈍い光とクロームメッキのガソリンシリンダーのまばゆい輝きを足元に従え、一人の男が双眼鏡を覗き込んでいた。
全身黒の革ジャン、革パンツ。
浅黒い肌と逆立てた髪。
男は片手に持っていたコーラの空き缶をノールックのスリーポイントシュートでゴミ箱に放り込むと、双眼鏡から目を離さずににやりと嗤った。
「・・・面白いことに、なって来たな・・・」
双眼鏡をしまい、丸太のような左腕を中空にかざす。
掌に力を込めると、そこに黒光りする大剣が具現化した。
その名は、煌黒の大剣・・・。
「『嵐の淑女』があの白ランだったのも驚きだが、それを倒す男がいるのも驚きだ。
さて、俺の居場所まで這い上がって来れるか。
もう少し、高見の見物と行こうか・・・」
そう言って男は、大剣を地面に叩きつける。
盛大な地割れが起こり、その先に立っていた大木が粉々に砕け散る。
同時に、大剣が輝きを放ち、光の粒子になってかき消えた。
男は壮絶な笑みを絶やすことなく、バイクのスロットルを握る。
ドルンッ!!とエンジンをいななかせ、道の向こうへと消えていった。
投稿者 ushila : 2011年04月19日 21:18
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